爛柯亭仙人の囲碁掌篇小説集(囲碁超短編賞悦集)

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怪奇&SF&ミステリー

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9 電車で詰碁を考えていたら、
「その手はダメ!」
という子供の声がした。碁の本から目を上げると、目の前に小さな女の子。バカな。空耳だ。再び詰碁に取り組む。
「それだとコウ!」
頭の中で声が響いた。女の子を見ると、まばたきもせずに私を見ている。怖くなって次の駅で電車を降りた。
8 男は碁盤に突っ伏すように死んでいた。盤上に血染めの詰碁。
「ダイイングメッセージか…」
と刑事。若手の相棒が「意味がわかりませんが?」
と呟く。
「簡単な話だ。三目中手。そいつに殺された」
「はあ?」
「犯人の名前さ」
「ナカテという名の人物?」
「おそらく」
「了解。当たります」
7 殺された女の傍には奇妙なメッセージが残されていた。
「囲碁に古語さ。式はしたわ。見てて明日香。跡も見たいか?」
担当刑事は「挑戦状か」と呟いた。暗号の専門家に解読を頼むと、まもなく「回文ですね」と返事があった。
「書いた。身元あかす。当ててみ。私は棋士さ。ここに来い」
6 碁盤の裏面、『血溜り』と呼ばれるヘコミに、殺された男の生首が載せられていた。口には碁盤の脚がねじ込まれている。
「死人にクチナシ…」
警視庁一の囲碁通である警部が凄惨な殺害現場の写真を見て言った。犯人は十分な手がかりを残している。逮捕は時間の問題だ、と警部は思った。
5 遠く離れた南と北で、睡眠薬自殺した男女の遺体が相次いで発見された。男は左手に白石を七個、女は右手に黒石を一個握りしめていた。奇妙な遠距離心中事件。警察に碁石の意味を問われた棋士は、
「先手と後手を決める握り」
と即答した。
「天国で碁を打つ約束でもしていたのでしょう」
4 あまりに面白い碁で目が離せなくなった。商店街にある『らんか』という骨董屋で、白髪の老人二人が戦っていた。強い。何子置いても私には勝てる気がしない。見終わって家に戻ると、新聞が溜っていた。妙だ。2週間先の新聞。ハッと思い至って商店街に戻ると、店はどこにもなかった…。
3 「あそこで放り込んでたら確実に死んでただろ?」
「あ、それから切って」
「目を潰してさ」
「ただじゃすまない」
「いや、お陀仏だよ」
「殺し屋になれたか」
「お前もまだまだ甘いな」
「殺すのは嫌いでね。平和主義者なんだ」
「これからどうだ?」
「いいよ」
「よし、駅前に碁会所がある」
2 遠くの宇宙から謎の信号が検出された。専門家が解読すると、信号は座標を表し、すべて縦横十九本の格子の交点に配列されていた。担当の科学者はすぐに悟った。誰かが碁を打っている…。だが、信号の方向は星一つない暗黒の世界。宇宙人ではないとすると…? 結論はまだ出ていない。
1 ノックの音がした。清楚で美しい有名女優似の女が盤石を抱えて立っていた。
「一局お願いできます?」
彼女を迎え入れ、対局した。私の半目負け。ちょうどいい強さだ。
「五千円です」
代金を払いながら、私は思った。彼女がアンドロイドだと気づく人は少ないだろう。これは商売になる。


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