TOP | 掲示板 | プロ棋士たち | 碁石の音が… | コンピュータと囲碁 | 不思議な話 | 囲碁のある人生 | 囲碁格言 |
男と女 | 怪奇&SF&ミステリー | 愛すべき碁仲間たち | 指導者たち | 碁のある風景 | 対局スケッチ | 回文 |
15 | パチリと碁石の音がした。 モニターの向こうで、息を呑むほどの絶世の美女が微笑んだ。見惚れている場合ではない。彼女の一手は膝を叩くような妙手だった。有効な打開策もないまま、私は投了した。パソコンをオフにしながら私は思った。やっぱり『超美女モード』での対局はやめよう。 |
14 | パチリと碁石の音がした。 モニターの碁盤上で相手の着手が点滅した。予想にない好手。この手だけでもかなりの打ち手とわかる。いや、ずいぶん前から感じていた。プロの私の手に対しごく自然な手で応え、少しも遅れない。あらためて登録名を確認した。sai。聞いたことのない名だ。 |
13 | パチリと碁石の音がした。 隣の席で若い男女が紙製の九路盤で対局していた。こんな居酒屋で囲碁とは珍しい。試合が終わると、男が女に金を渡し「また今度ね」と言って去った。なんなんだ? いぶかっていると、美しい女が私を見て微笑んだ。 「一局いかが? 今なら割引で五千円です」 |
12 | パチリと碁石の音がした。 目を開けると隣席の客二人が碁を打っていた。磁石付きの小さな碁石を器用に指先に挟み、パチパチと打ち進めていく。 「ジゴか。めでたいな」 「新年ですからね」 嬉しそうに笑った。飛行機は数時間で成田に到着する。私も囲碁を覚えようかな。ふとそう思った。 |
11 | パチリと碁石の音がした。 敵は史上最強のソフト『サンナボ』。プロ棋士と互先でいい勝負だ。確かに強い。いつか負けると覚悟はしていたが、公開対局の席は避けたい。鍋渡九段は果敢に勝負に出たがミスを犯して投了した。しかし彼は知らなかった。自分がロボットであることを…。 |
10 | パチリと碁石の音がした。 相手の着手を見て 「なるほど、そうきたか…」 と私は頷いた。序盤早々に相手の見損じがあり、たいした実力ではないと思っていた。声や顔からもひ弱な印象を受けるが、そうでもなさそうだ。やはり注意が必要なのだ。ネット対局は生の対局とは別物なのだから。 |
9 | パチリと碁石の音がした。 女の目の前で静かに座している男は整った美しい顔立ちをしていた。気品と知性を兼ね備え、女心をくすぐる歌詠みにも長けていた。碁の技量もかなりのもので、おそらく吾は敵うまい。いずれこの男をめぐる女人たちの物語を書いてみたい。紫式部はそう思った。 |
8 | パチリと碁石の音がした。 久しぶりの碁会所だった。 「あっ」 席亭が驚いていた。 「何してたの?」 「入院してまして」 「病気?」 「そう」 私はざっと説明した。ともあれ、これからは好きなだけ碁を楽しむことができる。 「一局お願いできますか」 私は再び碁石を持てる幸せを感じていた。 |
7 | パチリと碁石の音がした。 まずまずか。彼らはデータを走らせながら思考した。下等な猿だが、手どころの読みは意外に確かだ。だが、まだ甘い。名前欄に名人本因坊とある。珍しい名だ。文明度が低い猿どもの星を支配するのはごく簡単だ。太陽系第三惑星。猿どもが地球と呼ぶ星の話だ。 |
6 | パチリと碁石の音がした。 ひと目、悪手。目の前のF氏は自信満々の顔をしている。盤上に目を移して読み直したが、どう考えても悪手だ。首をひねっていると、 「あっ」 とF氏が奇声を上げた。 「これ、待った。勘違いだから」 そんなことだと思った。どうぞ次なる悪手をお打ちください。 |
5 | パチリと碁石の音がした。 だが次の瞬間、盤上から石が消えた。妙だ。相手は打ったはずだ。この目で見たのだ。 「打ちましたよね、今?」 私は訊いた。 「え? 打ってませんよ…」 そんな馬鹿な。打ったじゃないか。だが、確かに石はない。茫然としていると、パチリと碁石の音がした…。 |
4 | パチリと碁石の音がした。 「上手になったね」 私は満足して言った。 「その感じで打てれば有段者だ。碁石は叩きつけるように強く打ってはいけないよ」 目の前で、うっとりするほど美しい女が 「ハイ」 と微笑みながら頷いた。私好みの美女。史上初のアンドロイド棋士がまもなく完成する。 |
3 | パチリと碁石の音がした。 「次にどう打てばいいかわかる?」 彼女が示した碁盤をじっと見た。 「いい手があるわけ?」 と僕。 「そう。よく考えて…」 彼女が微笑んだ。 「あなたならきっとわかると思う」 そう言われて考えたが、わからなかった。こんなとき、どう答えればいいんだろうか。 |
2 | パチリと碁石の音がした。 「こんなところで?」 と自販機から顔を上げて横を見ると、煙草屋の店先で若い女性が代金を支払っているところだった。硬貨を指先に挟んで碁石を打つように出したのだろう。碁が趣味かと聞こうかと思ったが、怪しいオヤジに思われるのも癪でやめにした。 |
1 | パチリと碁石の音がした。 「これって取れるの?」 と彼女が尋ねた。 「よくわかったね」 僕はさも感心したように頷いた。 「天才じゃないの?」 今はおだてて碁を好きにさせることが重要だ。 「思ってたよりも面白いかも」 しめしめ。今から教育しておけば、結婚後も堂々と碁会所に行ける。 |