爛柯亭仙人の囲碁掌篇小説集(囲碁超短編賞悦集)

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碁のある風景

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18 攻め合いに石の形は関係ないと、指導碁で中国の棋士から教わった。たしかに取るか取られるかの一大事に形も何もない。このての美学が日本の碁を衰退させた原因か。仲間にそう話したら、我田引水と笑われた。自分のヘボ碁を日本の代表例にして言うなと。それを言っちゃあおしまいよ。
17 優勝したら豪華景品が貰えるというので、囲碁大会に参加した。日頃の行いがいいのか運よく優勝できた。榧の柾目の二寸盤。高価そうだ。家に帰って碁の打てる息子に自慢したら、安物の接ぎ盤だと笑われた。たしかに、端がほんの少しめくれ上がり、本物とは違う。見せなきゃよかった。
16 東京都の御蔵島に生える桑の木は島桑と呼ばれ、碁笥の高級品となる。碁笥とは碁石を入れる器のことだ。弘法は筆を選ばずというが、そんなことはない。書も音楽も囲碁も、いい道具をもてば勉強に力が入り上達する。嘘だと思うなら、やってみるといい。その前に碁を覚えるのが先だが。
15 置き石一個が12目ほどの価値として、五子も置けば最初は60目のリード。しかし、あっちで三目こっちで五目と損を重ね、気がつけば逆転されている。考えてみれば、三目損な手を10回打ち、敵に三目得なヨセを10回打たれたら、追いつかれる。なるほど。私が勝てないわけである。
14 戦いが一段落して手番が回ってきたら、盤上を広く見て、「大きいところを打て」と言われた。そう言われても、大きいところがわからない。わかればとっくに打っている。大きいと思って打っても、あとで「小さい」と言われる。どうなっているのか? 囲碁は当分やめられそうにない。
13 世界最小の碁盤は1×4路盤である。└┴┴┘黒先。この小さな碁盤に宇宙がある。囲碁の奥深さや面白さが凝縮されている。日本囲碁規約を理解していないと、県代表クラスのアマ高段者といえども、間違うかもしれない。だが、答えが簡単にわかる方法があるのだ。それは…。(続く)
12 「中国ルールで考えれば、世界最小碁盤は簡単に解ける」
とKが言う。なるほど。中国ルールなら最後の手入れの要不要は深く考える必要がない。
「だが、だからこそ日本ルールのほうが深遠なんだ。そう思わないか?」
たしかに。だけど両ルールでは、結論が微妙に異なるのではないかな?
11 人真似が大嫌いで、なるべく定石にない手を打つように心掛けている。すると相手は「ハメ手か」と身構え、そのせいで悪くなると、「定石破りのインチキ手に騙された」などと逆恨みされることもある。もちろん私が失敗することも多い。でも、それでいい。自分の碁を打ちたいのだから。
10 趣味は囲碁というと、
「頭がいいんですね」
とよく言われる。そんなアホな。このての無理解は、趣味はパソコンといったときに「頭がいい」というのと同じだ。碁は頭を活性化しボケ防止に効果があるが、いい歳をした大人の頭がよくなるとも思えない。もちろん、なったら嬉しいのだが。
9 実戦で生じた形をもとに詰碁を作ろうとしていたら、実戦でも詰碁になっていることに気がついた。相手に妙手があり、無条件活きと即断していた。だが、こちらにも粘りの妙手があってコウになる。自分のマヌケさには呆れ果てる。誰か見損じのない脳味噌に改良する妙手を知らないか。
8 詰碁ができると携帯で撮影し、碁仲間にメールで送る。回答は言ったり聞いたりしないのが暗黙のルール。解けなければナシの礫だ。イタズラ心で解けない問題を送ったら、すぐに反応があった。
「失題を送るな。メールの件名に『絶対に解けない詰碁』と書いてあるぞ」
いかん。慢心した。
7 右手で黒石を打ち、左手で時計を叩く。私には時間がなかった。すると相手が
「僕の残り時間を使って二人で打ち切りましょう」
と言った。
「時計の叩き合いをしに来たわけじゃないから」
今時珍しいノブレス・オブリージュ、いや、騎士道精神に乾杯。私もいつか同じことを言ってみたい。
6 なるほど勉強になるな、と思いつつ棋書をめくった。三分の二ほど読んだところで激しいデジャヴ感に襲われた。以前に読んだ覚えがある…。パラパラとページをめくっては、問題図をあれこれ眺めた。しまった。また同じ本を買ってしまった。なんだ、ちっとも勉強になってないじゃないか。
5 できたら高段者という詰碁があっさり解けてしまった。なんだ、簡単じゃないか。だが「違う」と跳ね返された。おかしいな。考え直して答えたが、それもダメだという。結局、いくら考えてもわからない。
「僕には詰碁の才能がないのかも」
と言うと、
「詰碁も」
と返された。うるさいよ。
4 「酒を飲むと最低三子は強くなる」
とS氏が言った。
「だから三子弱くなる人と打つと、ふだんより六子も違うことになるんだよね」
楽しそうにS氏が笑う。酔うと第一感で厳しい手を選ぶのが、三子強くなる理由だという。残念だが、S氏と碁の打てるスナックに行くのはやめにしよう。
3 「官子譜を丸暗記することにしたよ」
とカズさんが言った。
「そうすれば強くなれるからね」
どうやら本気のようだ。どうせ途中で放り出すに決まっているし、そんなことできっこない。いや、できないと思う。できないでほしい。できたら困る。
「それは無意味だなあ」
と私は首を振った。
2 「この白石はね、一個一万円近くもするんですよ」
K氏が自慢した。日向産の本蛤。その模様と光沢。惚れぼれするような逸品だ。白石の数は180個。本榧の碁盤と島桑の碁笥を加えて、全部でいくらになるのか見当もつかない。囲碁の技量が道具に見合えばいいのだが。余計なお世話か。
1 囲碁のルールは簡単だ。交互に打つ、相手の石を囲めば取れる、着手禁止点がある、同型反復の禁止、地が多いほうが勝ち、以上。そう教わって始めてみたが、どう打てばいいのかわからない。何を考えればいいかがわからないのだ。私の頭は左巻きなのか。それとも神様のゲームだからか。


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